Sunday, May 6, 2012

武雄市長「何を借りたかっていうのは、なんでこれが個人情報だ!って思ってる」

背景説明

佐賀県武雄市の樋渡啓祐市長が、TSUTAYAで有名なカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下CCC)と締結した「武雄市とカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社の武雄市立図書館の企画・運営に関する提携基本合意について」の記者会見を行いました。その記者会見の場で、樋渡市長から次のような発言がありました。
僕はもう、元々、何を借りたかっていうのは、なんでこれが個人情報だ!って思ってる
高木浩光@自宅の日記, "■ 武雄市長、会見で怒り露に「なんでこれが個人情報なんだ!」と吐き捨て", 5/4/2012 分より引用
そこでの発言に対して、Facebookでいくつか私の考えをポストしましたが、ここでちょっとまとめてブログ記事にしてみようと思います。

図書館資料の閲覧・貸し出し記録は保護されるべき個人情報

日本図書館協会(以下JLA)が1954年に採択し、1979年に改訂された、「図書館の自由に関する宣言」では、次のように謳われています。

第3 図書館は利用者の秘密を守る

  1.  読者が何を読むかはその人のプライバシーに属することであり、図書館は、利用者の読書事実を外部に漏らさない。ただし、憲法第35条にもとづく令状を確認した場合は例外とする。
  2.  図書館は、読書記録以外の図書館の利用事実に関しても、利用者のプライバシーを侵さない。
  3.  利用者の読書事実、利用事実は、図書館が業務上知り得た秘密であって、図書館活動に従事するすべての人びとは、この秘密を守らなければならない。
上記に照らせば、"誰が何を読み、何を借りたか" というのは保護されるべき個人情報であり、武雄市長の発言僕はもう、元々、何を借りたかっていうのは、なんでこれが個人情報だ!って思ってるは、明らかに「図書館の自由に関する宣言」に反するものということになります。

私の問題意識

自治体の首長から上記のような発言をされて、私は危機感を覚えました。
私のFacebookでのポストは、下記のとおりです。
Hideaki Nishikawa 武雄市長の考えは、日本図書館協会(JLA)の「図書館の自由に関する宣言」に反しています。「なんでこれが個人情報なんだ!」という発言は、一司書(図書館勤務ではありませんが)として受け入れることはできません :-(。図書館利用者が "何を読み、何を借りたか" は、完全に個人情報だと考えます。

図書館の自由に関する宣言 http://www.jla.or.jp/library/gudeline/tabid/232/Default.aspx

Hideaki Nishikawa via Tabata Shintaro 武雄市長の考えは、日本図書館協会(JLA)の「図書館の自由に関する宣言」に反しています。「なんでこれが個人情報なんだ!」という発言は、一司書(図書館勤務ではありませんが)として受け入れることはできません。図書館利用者が "何を読み、何を借りたか" は、完全に個人情報だと考えます。

すべての図書館が全力で守るべきとされている、図書館の自由に関する宣言 http://www.jla.or.jp/library/gudeline/tabid/232/Default.aspx には、
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第3 図書館は利用者の秘密を守る
  1.  読者が何を読むかはその人のプライバシーに属することであり、図書館は、利用者の読書事実を外部に漏らさない。ただし、憲法第35条にもとづく令状を確認した場合は例外とする。
  2.  図書館は、読書記録以外の図書館の利用事実に関しても、利用者のプライバシーを侵さない。
  3.  利用者の読書事実、利用事実は、図書館が業務上知り得た秘密であって、図書館活動に従事するすべての人びとは、この秘密を守らなければならない。
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とあり、指定管理者や提携先がCCCになろうが、どこになろうが、市長の信条がどうであろうが、守られなければならない秘密なのです。
レコメンデーションサービスをやろうとするのはいいアイデアだと思いますが、利便性を優先しようとするあまり、図書館の自由に関する宣言がないがしろにされるようではいけないと思います。

武雄市立図書館の職員の方々、そしてJLAには、相当な危機感を持っていただかなければ、危ないことが進んでしまうと思います。
■ - 高木浩光@自宅の日記 - 武雄市長、会見で怒り露に「なんでこれが個人情報なんだ!」と吐き捨て takagi-hiromitsu.jp
「日本ツイッター学会(自称)」会長兼「日本フェースブック学会(自称)」会長の、武雄市長(佐賀県武雄市)が、武雄市の市立図書館で、CCC(カルチャー・コンビニエンス・クラブ)と提携して、Tポイントカードを導入するとの構想を発表した。

Hideaki Nishikawa 武雄市立図書館→武雄市図書館 が正しいですね。
まあいずれにしても、何が個人情報なのか、何が秘密にしなければならないものかを、しっかり認識していないと落とし穴にハマると思います。

Hideaki Nishikawa ‎"誰が何を読み、何を借りたか" というのは保護されるべき個人情報だと思うのですが、武雄市長の考えは違うようです。
武雄市長には、「図書館の自由に関する宣言」「図書館員の倫理綱領」を熟読し咀嚼してもらいたいものです。

もうちょっと長い文章をこちらに書いています。↓
https://www.facebook.com/hide0312/posts/234782013288853

武雄市と武雄市長は聞く耳を持っている?

上記に列挙した中で、最後のポストは 武雄市役所 Facebookページ に乗り込んで書いたものです。この文章を書いている時点で 6 Likes いただいていますが、その中に「武雄市役所」「Keisuke Hiwatashi」(武雄市長)のLike(いいね!)がついていました。
政治的なバイアスがかかった投稿ならともかく、そうでない意見については、結構受け止めて検討されるのかなと感じました。

新図書館構想について

開館時間の延長を行ったり、レコメンデーションサービスを行ったり、貸し出しでTポイントが貯まったり、「代官山の蔦屋書店がモデル」と発言しているところは、素直に評価すべきかと思います。郵送で書籍の返却ができるというのは、郵送でレンタルCD/DVD返却を受け付けているTSUTAYAのノウハウが活きるところですね。少なくとも、古いスタイルの図書館運営に一石を投じたことは間違いないでしょう。

そして、再び個人情報

樋渡市長は、彼の持論として「貸出情報は個人情報には当たらない」と言っています。この点については、私と意見を異にします。
再度持ち出しますが、「図書館の自由に関する宣言」には「図書館は利用者の秘密を守る」と謳われています。ではこうした宣言が採択されたのはなぜでしょうか? 第二次世界大戦当時、特高が市民の言論を厳しく統制し、国民総動員体制のもとで、図書館も自ら思想統制に協力したという苦い歴史がありました。戦後、特高は解体されましたが、冷戦の下再び締め付けが厳しくなっていく中、警察(公安部・課)から令状のない捜査協力を強要されたりしないために、図書館は自らを律する宣言を表明するに至りました。それが「図書館の自由に関する宣言」なのです。
「図書館の自由に関する宣言」は司書教育の中でももちろん触れられますし、すべての司書が知っているもので、ほとんどの図書館関係者が尊重しているものです(*)。
*: 中には宣言に反する行動を行った(検閲事件を起こした)職員もいましたが……。
樋渡市長は良かれと思って「新図書館構想」を打ち上げ、その中で、彼の持論である「貸出情報は個人情報には当たらない」が浮き彫りになってきたのが今回の騒動の元でしょう。
「新図書館構想」には評価すべき点も多くあると思いますし、私はそれを潰そうとしているわけではありません。ただ一点、「利用者の秘密」は守られるべきもので、立派な個人情報であるという点を市長に理解していただきたいのです。市長、お分かりいただけますでしょうか?